いじめ論の広げ



いじめを考えるための本二冊の目次


 

『い じ め』
─ 10歳からの「法の人」への旅立ち─

ミネルヴァ書房 2019年4月11日

「小さな正義」がいじめに発展しないように
いじめを教室の中だけの出来事に終わらせてはいけない

本書では、十歳から「法の人」になるための「クラス運営」を提示し、それがなされずに起こった悲惨な二つの〝事件〟を検証する。

子どもたちは十歳を過ぎると、自分たちで「グループ」を作り「グループの掟」を作る。そして、教師の「見えないところ」で「違反者」を見付け、「裁く」ことを始める。「私設の裁き」である。こういう事態を招かないために、教室を「公の場」として成立させる工夫と理解が必要になる。そのためには何をするべきかを提案してゆく。

―目次―
序 章 「法の人」とは
第1章 「いじめ」とは──「いたずら」や「ふざけ」との違い
第2章 10歳からの旅立ち──「法の人」となる
第3章 「先生の力」とは何か──「法の人」を育てる
第4章 「葬式ごっこ」──中野富士見中いじめ自殺事件を考える
第5章 「NEXT」──「佐世保小六女児同級生殺害事件」を考える
第6章 いじめへの対策──「二分の一成人式パスポート」
第7章 10歳からの「法」──「少年法」との関わりについて
第8章 学校と警察との関係はどう考えるのか──「連携」の本当の意味
第9章 いじめと少年法と警察と──「子どもの権利条約」
第10章 「いじめ論」──本を読む、深くふかく読む
終 章 思想としてのいじめ

詳細目次

序章 「法の人」とは

第1章「いじめ」とは ―「いたずら」や「ふざけ」との違い
  Q1 「いじめ」が起こる「教室」というものをどう考えればいいのでしょうか。
  Q2 教室の持つ二重性「教育の場」と「法の場」とは。
  Q3 文部科学省の「いじめ」の定義はどう変わってきたのでしょうか。
  Q4 文科省以外の「定義」はどうなっていますか。 【「裁き」と「制裁」】
  Q5 いじめを考えるために、童話「カイロ団長』がおすすめと聞きましたが。
  Q6 いじめのきっかけは「違反」を見付けるところから、というのは。 【子どもたちの法的な活動】
  Q7 「自分たちの正義からするいじめ」というのは。 【正しさの基準】
  Q8 いじめは世界中の国で起こっているのですか。 【差別といういじめ】
  Q9 「福島原発事故によるいじめ」と「ノルウェー77人殺害テロ事件」に共通するものは。 【「違反」「違法」の印】
 コラム 「窓をあけて下さい」

第2章 10歳からの旅立ち ―「法の人」となる
  Q1 いじめの始まる年齢はいつ頃ですか。 【法の意識】
  Q2 「ギャング・エイジ」と呼ばれる時期は10歳頃からでしょうか。
  Q3 「ギャング・エイジ」の特徴は。 【「掟」の意識】
 コラム カフカ「掟の門番」

第3章 「先生の力」とは何か ―「法の人」を育てる
  Q1 「怒らない」という先生はなぜダメなのですか。 【先生の命令】
  Q2 「先生の力」について、先生が勘違いをしていることは。 【まとめる力】
  Q3 教室につくる「広場」と「法の人」を育てることとの関係は。 【「解決】と「修復」】

第4章 「葬式ごっこ」 ―中野富士見中いじめ自殺事件を考える"
  Q1 なぜ「葬式ごっこ」を考えることが大事なのですか。 【教師も署名】
  Q2 具体的にどのような経過をたどった事件ですか。 【暗黙の掟】
  Q3 鹿川君が「自死」を決意する一番のきっかけは何だったのですか。 【居場所がない】
  Q4 鹿川君の「自死」の直後に起こったもう一つの重要な出来事とは。 【鹿川二世】
  Q5 警察に関わっていくことの意味は。 【大人法と「子ども法」】
  Q6 この事件から学ばなければいけなかったことは何ですか。 【警察の介入】
 コラム M.フーコーの新しい権力観

第5章 「NEXT」 ―「佐世保小六女児同級生殺害事件」を考える
  Q1 この事件は、いじめというより「殺人事件」ですが、なぜ「いじめ」問題として取り上げるのですか。 【制裁が殺人となった】
  Q2 A子は詩を書いているのですが、詩からA子の心情は読み取れますか。 【詩「許せない」】
  Q3 とても仲良しだった二人なのに、なぜ関係は険悪になっていったのですか。
  Q4 A子は他にもたくさん詩を書いているのですが、詩からA子の大きな変化は読み取れますか。 【「法】と「罰】】
  Q5 この事件から学ばなければいけなかったことは何ですか。 【法的には無効】
 コラム 「お父さんに暴力を受けています」

第6章いじめへの対策  ―「二分の一成人式パスポート」
  Q1 なぜ「10歳」が大事なのですか。 【先生に見えないもの】
  Q2 斎藤次郎『気分は小学生』は、どんな内容の本ですか。 【56歳の小学生】
  Q3 なぜ「先生の代行」には「力」があるのですか。 【先生の強制力】
  Q4 「子ども法」の二つの側面とは。 【公共と仲間内】
  Q5 「ごっこ」という考え方は良くないのですか。 【シミュレーションの危うさ】
  Q6 「公共の場」は生まれてくる? 【授業の力】
  Q7 「いじめる子」とは、どういう子でしょうか。 【『いじめをする子との対話』】
  Q8 「クラスの力」を「先生の力」にするとは、具体的にはどういうことをするのですか。 【王様の命令】
  Q9 クラスの話し合いの前提となる「六つの合意」について教えて下さい。 【インフォームド・コンセント】
  Q10 二分の一成人式パスポートについて教えて下さい。 【法の世界に入るためのパスポート】
  Q11 文科省の指導する年2回のいじめアンケートの結果は、どのように処理されているのでしょうか。 【いじめは止んでいる?】
  Q12 文科省は「クラス会」ではなく「道徳の授業」でいじめ対策を考えることを奨励していますが、これに問題点はあるのでしょうか。 【対策と感想】
  Q13 「クラス会(広場)」を活用している学級では、道徳の教材はどのように見えるでしょうか。 【「解決」を考える】
  Q14 「なぜ、いじめは絶対にダメなのですか」という質問の問題点は。 【いじめは犯罪】
 コラム 宮沢賢治のいじめ論

第7章 10歳からの「法」 ―「少年法」との関わりについて
  Q1 10歳から始まる様々な力について教えて下さい。 【言い分の比較】
  Q2 「比較」が始まると変わることは。 【「劣・負」を嗅ぎ取る】
  Q3 「掟=子ども法」をつくり出す子どもたちの心理とは。 【見えない時間】
  Q4 教室にある三つのルールとは。 【共有意識】
  Q5 広場から生み出される「子どもたちの力」とは。【仲立ちの仕組み】
  Q6 友だち関係のこじれを修復するには。 【特別クラス会】
  Q7 「いじめ防止対策推進法」の問題点は。 【ミニチュア版】
  Q8 いくつもの自分に分かれる体験とは。 【「公共の人」つくり】
  Q9 10歳頃に始まる自分実現への動きとは。 【変身の物語】

第8章 学校と警察との関係はどう考えるのか ―「連携」の本当の意味
  Q12 2013年に文部科学省が出した「学校と警察等との連携」という文章は、どう考えればいいでしょうか。 【まずは「相談」から】
  Q2 警察との連携を考える際の二つの視点とは。 【警察が動く時】
  Q3 2015年、神奈川県教育委員会の出した「学校警察連携制度ガイドライン」(改正版)の要点を教えて下さい。 【連携が先にありき】
  Q4 一人ひとりが「法の人」としての「力」を付けるには、どうすればいいでしょうか。 【本当に大事なこと】
  Q5 取り戻すべき先生の力とは。 【「先生の力」を支える力】

第9章 いじめと少年法と警察と「子どもの権利条約」
  Q1 いじめと少年法はどう関わるのですか。 【14歳未満】
  Q2 少年法と警察との関係は。 【市民警察】
  Q3 漫画『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の大人気はなぜ。 【牙をむかない】
  Q4 少年警察活動とは。 【少年法と少年警察】
  Q5 「子どもの権利条約」の弱点とは。 【少年法の弱点】
 コラム 与謝野晶子の「いじめ」の話

第10章 「いじめ論」本を読む、深くふかく読む
  Q1 中井久夫「いじめの政治学」が重要なのはどういう点ですか。 【「子ども警察」「子ども裁判所」】
  Q2 中井氏の有名な「いじめの三段階説」について説明して下さい。 【心理的メカニズム】
  Q3 いじめの第二段階「無力化」とは。 【劣った人間】
  Q4 いじめの第三段階「透明化」とは。 【選択的非注意】
  Q5 なぜ「教室」でこのような「いじめ」が起こるのですか。 【看守と囚人の関係】
 コラム ラ・ボエシ『自発的隷従論』を読む

終章 思想としてのいじめ

 

 

 

村瀬学『いじめの解決 教室に広場を』言視舎2018

法律をつくり、「見回り」やスクールカウンセラーを増やしても、いじめはなくならない。
子ども社会に潜むいじめを生み出す人類史的な構造を見据えながら、「大人の監視」を強めるだけの国や学校の施策に対し、子ども自身の手で問題を解決しうる方策を具体的に提案する。本当に役立ついじめ論。

目次

はじめに ー「法の人」を育てる

第1章 教室に広場を
  1 中井久夫氏の願う「子ども警察」「子ども裁判」
  2 教室に「広場」をつくる
  3 10歳のクラスから「広場」を ―「公共の世界」に道を付ける
  4 子どもたちの力「おきて(掟)の人」から「法の人」へ

第2章 「広場」をどうつくるのか
  1 「話す」のが怖い ―「仕返し」からの保障を
  2 「広場」・深くたずねる思想 ―ここは「裁判」をする場ではない
  3 「広場」での出会い ―「遠くから来る人」が出会う~誤解や偏見や勘違いを双方から正す
  4 自分の中の「三者」を育てる ―「たずねる人」「たずねられる人」「深くたずねる人」
  5 「広場」憲章
  6 「広場」はじめます ―ある日の光景
  7 「広場」を体験した子どもが、別なところでも「広場」をつくる ―家庭科からシティズンシップ教育へ向けて
  8 「子ども法」の原型・「鬼ごっこ」と「じゃんけん」 ―「見えない法廷」へ

第3章 いじめを描く文学作品の読み解き ―「文学の力」へ
  はじめに
  1 ムージル『寄宿生テルレスの混乱』 ―恐ろしい「合意」
  2 谷崎潤一郎『小さな王国』 ―「言いなり」になるとはどういうことか
  3 ヘッセ『デーミアン』 ―「子ども法」の世界
  4 吉野源三郎『君たちはどう生きるか』 ―昭和12年のいじめ考
  5 柏原兵三『長い道』 ―いじめの「政治学」、グループの抗争

第4章 立法として制定された「いじめ防止対策推進法」異論
  1 文学作品から学んだこと
  2 「いじめ防止対策推進法」
  3 先駆的な「川崎市子どもの権利にかんする条約」への私見

第5章 もう一つの「広場」考
  1 「広場」とは何か卵
  2 工藤和美『学校をつくろう』
  3 『子どもとともに創る学校』
  4 18歳成人に向けての「広場」つくりについて

第6章 いじめ出来事と研究(「大津市中2自殺事件」と森田洋司『いじめとは何か』)
  1 「二〇一一年大津市中2いじめ自殺事件」の経過とその変わらない対応
  2 森田洋司『いじめとは何か』を批判的に読む

あとがき

 

 

自著紹介
                             村瀬 学

 いじめは、子どもたち同士で「違反者」を見つけ、その友を「裁く」意識を持ち始める10歳頃からはっきりと出てきます。相手が「違反者」として「非」があるのだから「罰」を与えるという意識です。大事なことは、こういう子ども同士の身勝手な「私設の裁き」に対抗して、教室の中で、しっかりと立ち向かえる子どもを、「公の人」「法の人」として育てる必要性があります。この「公の人」を育てるためには、教室に「外=社会」に開かれた「話し合いの場=広場」をつくる努力を教師が指導しなければなりません。そこで、子どもたちが、「私設の裁き=いじめ」を「公の場」で訴える力を付けることになります。そのためには、何よりもそういう方向を教師がしっかりと支えられる力を身につける必要があります。
 もめ事には必ず「小さな正義」が絡んでおり、そういうことの起こるところには生徒同士の「言い分」があります。大事なことはその「言い分」を聞く「場」を設けるということです。それも当事者だけを「別室」に呼んで話を聞くのではなく、みんなの聞いている中で「言い分(小さな正義)」をみんなが考えるという「場」(私はそれを「教室に広場を」と呼んでいます)を作ることなのです
この本では、事例の分析も交えながら、生徒と教師の両方に、しっかりと役立つための対策を提示しています。とくに、教室で実際に使って頂けるような9歳10歳からの「二分の一成人式パスポート」のアイディアも出しています。「法の世界」に入ってゆく準備のための「パスポート」です。

 

 

自著紹介『いじめ』ミネルヴァ書房

 

 このたび拙書『いじめ』を上梓いたしましたので、紹介させていただきます。
先日の毎日新聞(2019.3.24)に、「10~14歳死因自殺最多 戦後初・17年100人 動機不明突出」というショッキングな見出しの記事が出ておりました。10歳で「死ぬ」ことを選ぶ心境は推し量ることができませんが、惨事としかいいようがありません。
 わたしはこの「10歳」の位置を、従来の「発達心理学」とは違った視点から、考えようと努めました。この時期から「いじめ」が本格的にはじまるからです。この時期に、「いじめ」をする方も、される方も、そこで、そういう行為と「向かい合う機会」を与えられないと、ずるずると、そういうことが「正当化」される雰囲気が醸造されてゆくことになります。歯止めは、この「10歳」からなのだと、強く感じてきておりました。
 わたしの「いじめ」論の特徴は、文科省が撲滅さそうとしているような「悪いこと」として捉えておりません。基本的には、それぞれの子ども同士の間で発生する「小さな正義」をもとに、「非正義」を叩くようにはじまることとして、考えようとしてきています。いじめには「している方」に罪悪感がない、ということは従来からさんざん指摘されてきました。当然なのです。「小さな正義」に基づき、そういうことがなされてきたからです。しかし、文科省には、そういう視点がないものですから、「罪悪感」なしにおこなわれるいじめが生まれるのは「道徳心」が養われていないからだとして、「道徳教育」の強化に力を入れようとしてきました。
 文科省を含め、国の対策は何を見誤ってきているのかと言いますと、この「小さな正義」が「法的意識の始まり」として生まれているところです。発達心理学的には「子ども」と位置づけられる者たちの間に、この10歳頃から「法の意識」が芽ばえ、それが友だち同士を傷つけるように使われ始めてくるところです。
 でも、従来の刑法や少年法、子どもの権利条約では、こういう10歳は「保護」される対象ではあっても、「法的な主体」として育ててゆこうというふうには見なされてきませんでしたし、そのための具体的な道筋は示されてきませんでした。その結果、何かもめ事が起これば「別室」でスルールカンセラーに頼って処理をしてもらうような動きばかりが推奨され、もめ事の起こる現場、つまり「教室」で生徒と先生が、知恵を絞って「向かい合う」試みを形成するようには動いてきませんでした。
 なぜ「向かい合う」ことが必要か言いますと、もめ事には必ず「小さな正義」が絡んでおり、そういうことの起こるところには、生徒同士のそれぞれの「言い分」があるからです。大事なことはその、それぞれの「言い分」を聞く「場」を設けるということです。それも当事者だけを「別室」に呼んで話を聞くのではなく、みんなの聞いている中で「言い分(小さな正義)」をみんなが考えるという「場」を作ることが必要なのです。
 そのことについては何度も本文で触れています。そのために、教室で実際に使って頂けるような9歳10歳からの「二分の一成人式パスポート」のアイディアも出しています。最後は、この論の出発点になっている中井久夫先生の胸を借りた論も展開しております。三島由紀夫の投げかけた鋭い問題提起をまえがきとあとがきではさんで、考えられることを考えてみたつもりであります。
 どうぞご覧いただけましたら幸いです。

2019年3月