高校生詩集  蜃気楼    (高校一年生)    

                  柳澤 渓(やなぎさわ けい)ペンネーム

もくじ
私に贈る 9/1
みんな変わってゆくんだな
 一人で生きる
 秋の夜 9/12
夕暮れ 9/13 (『潮』9号1965.11.2)
私の雨 9/18
娘さん 9/21
カナリアの歌 9/28(『潮』9号1965.11.2)
夕焼け 9/30 (『潮』9号1965.11.2)
空 (『潮』9号1965.11.2)
夜ふけ 10/6(『潮』9号1965.11.2)
 秋の夜 (『潮』9号1965.11.2)
教室 (『潮』9号1965.11.2)
秋日 9/25
 夜寒 9/29

秋 11/6
試験前 12/2
不思議な景色
晩秋
浜辺
 思春
海の見える町
虚栄心 9/30
 試験前 12/2

思い出
愛T 11/6
愛U 11/27
 時
 ムウルフ
クリスマス プレゼント
ある日 (『潮』10号1966.3.1)
 師走の街
 迎年
 あの頃を求めて

【山の詩】

青春 9/2  (『潮』9号1965.11.2)
非情の岩 9/20 (『潮』9号1965.11.2)
ザイルの世界 9/23 (『潮』9号1965.11.2)
躍動
人と岩と
夜行登山






詩集 蜃気楼 (高校一年生)
     柳澤 渓




 私に贈る

私に贈る
励ましの言葉
喜びの言葉
慰めの言葉
青空に向かい
大地を叫び
草木に尋ねる
広い海原に立ち
高い峰に登り
はてしない宇宙を眺める
たえまない心の叫びと
後悔と挑戦と
若き日の夢の数々が
私の老うる幸せの日まで
永遠に美しいく尽くことのない
すばらしい色彩で残ることを
ここに願って
          1965年9月1日



 みんな変わっていくんだな

みんな変わっていくんだな
川下の石が川上へ上がっていくように
それぞれ形の違った岩になろうとしているんだな
あんなにも心の中を打ち明けたともが
あんなにもいつまでもの交わりを誓ったともが
今は遠く一人の川底をはっている
それぞれの違った川底を
自分もそんなに変わったのか
アゴに生えてくる新しい自分が
新しく生えてくる友を知らないんだ
みんな変わっていくんだな


 一人で生きる

君はいない
そう あの瞳も
あの唇も
あの微笑も
だけど僕は生きる
生きていける

悪いことはしていない
冷たくなんかしていない
まして怒ってやなんかしていない
ただ 一人で生きてみたいんだ

今度は岩が相手さ
雲が友さ
お花が恋人さ
そうだろう
僕のあこがれの故郷よ

遠い峰よ
白い霧よ
叫ぶ谷間よ
僕を強くしておくれ
一人で生きられるように
9/4


 秋の夜

頬に手に うっすら寒い秋の夜は
淋しく秋虫の声に包まれる
瞳にうつる二つの月は 同じ青さの毛布に眠り
時々一つがさざ波に起こる
天の無数のともしびと
遠い里のともしび
私の耳をそばだたせ永遠の月日を忘れさせる
ああ じっと立っていられない
今にも体がもろくくずれ
いつしか夜風にとけてしまいそう
9/12

 夕暮れ

ひたいに心よく
髪がたなびき
陽の影にうす赤く
尾を振る青田のさびしさよ
暮れゆく西山に
低く音なく
白い花咲き 
飛んでゆくのは
今日を恋うるしらさぎか
9/13


 私の雨

今日も私の雨が降る
彼らが嫌う雨が降る
地上を夢の舞台に仕上げ
白き流れにいつしか甘く
恋を感じさせる雨が降る

今日も私に雨が降る
庭の茂みに雨が降る
瓦が生きて光を放ち
ささやき合うつばきの緑が
うるんで私に呼びかける

今日も私の雨が降る
しょんぼりまなこに雨が降る
自然の奏でるメロディーに
まなこの開くのを見つけます
道ばたのジャリが
製材の材木が
電話ボックスが
みんなはつらつとほほえみを浮かべ
煙の中に生き返る
私の中に生き返る
9/18





 娘さん

街角を少し気取って娘が歩く
あなた達なんか知らないわよ
と両手にカバンを抱えて歩く
エンゼルヘアーを白衣にみたし
今にもはちちれそうな身体を
セピアのバンドが二分している
うっすら赤くつぼみのような唇に
遠く輝く星のような瞳に
開花のおとずれを待つ喜びがみなぎっている
朝霧に似たさわやかな髪に
ふっと心が動く香りが漂う
娘さん 真ん中を歩くのはやめておくれ
娘さん 女王のように気取らないでおくれ
僕は太陽を見るようにまぶしいじゃないか
9/21


 秋日

晩秋が訪れるというので
この大気の暖かいうちに
手をとって明るく笑いながら
小川の流れる小道を若人は歩く
  9/25


 秋

秋の季節は木枯らしが荒れくるい
拭いても拭いても
内なる窓のくもりは消えることがない


 夕焼け

こうやってぶちあたる風に
まつげをしょぼつかせながら
流れゆく日の落ちた空を見ていると
どこか遠くの海鳴が
晴れない愁いを
いさめてくれるようだ
9/30

 カナリアの歌

きっと私の心があの空のように
大きく澄んだ瞳を持っていないからでしょう
きっと私の意がこの秋風のように
自由にそしてつくことなしに
飛び回ること許されないからでしょう
私が山に行き 山に求めたいのは それなのです
いつも自分だけを考え
小鳥のさえずりにも耳を傾けようとしない
そんな友のあふれる収容所に私はいたくないのです
歌を忘れさせられたカナリアのなんと多いこと
ひらひらと散る 黄色い落ち葉にもの淋しさを感じ
大阪の灰色の空に生きる望みを忘れ
今小高い丘の上のテラスに立っている私に
かつ 必要なのは愛する心です
あの空を美しいと感じ
林の中を歩いて道端のこけに親しみ
この収容所の一人一人をかわいそうな人と感じることのできる
そんな私を明日の山は待っているのです
私の中の私も そんな私をきっと待っているのでしょう
9/28

 空

あなたは無慈悲だ
私の心がこんなにも暗いのに
ますます澄みきって一点のにごりも見せない
夕べの星は私を察して いつもの夢の元素を見せない
と喜んでいたのに
あなたは無慈悲だ
一日の淋しさにこらえてやっとを帰路につく頃
赤く髪をそめ 目に涙を覚えさせる

どうも近頃私を偽るようだ
あなたのあの青い無限の広がりと
神秘なあわい小さな宝石を見るたびに
静かな明日を約束する夕焼けをながめるたびに
愁いほぐれ 喜びが私を愛撫するのに
あなたは私を知っている
私もあなたに有ることを願っている
しかし今はそんなあなたに無抵抗なのだ
誰が押さえるのか知らないが
自由をえられない全くの無抵抗なのだ



 夜寒

ガラスが割れて 一面の空に飛び散った
いかにも冷たそうだ
まだ九月の終わりというのに
虫の声だけは一層さえて
夜さりはもう氷っているじゃないか
9/29



 夜ふけ

虫の声が落ちてくる夜ふけ
鉛筆が
ノートが
消しゴムが
むずむずと羽を持って飛び立とうとする
凝視の不可能は太陽のものじゃない
焦点のない夜ふけ
焦点のない夜ふけは
大きな虫の声が一層落ちてくる
10/6


 教室

ひっそりと大地に昼の陽がほほえみ
丘の四角い小さな世界に夜のささやきはくる
青いリンゴがレモソをかじり
今日や明日を空の片すみにかかげ
山に行くことを恐れ 軽蔑し そして妬み並んでいる
金ボタンの盾は価値なく折られ
ハーケンの打ちこむクラックもないほど
堅固な武装に余念がない日々を
そんな悪魔の暦を大いなる賛美の対象として
背いリンゴは今もくちた目つきで座っている
10/7



 秋

ふたたび落ち葉の舞う季節が来た
さびしげな音を立てて

別れた後の空の美しいこと
ここで語った長い重いつらい一時
別れは空しさをともない
さらに倍の喜びをともなう
やさいい言葉も わからない瞳も
私を有頂天にあげたあげく
冷たく見定めて笑う
それは昨年の落ち葉の舞う頃と
いっこうに変わらない さわやかな風が吹いていたのだが
11/6



 不思議な景色

こんなにも静かな昼過ぎがくると
高く伸びた柿の木やぼうっとして群がるすすきや
時々ふるえる池や青い空 白い雲の調和に
妙な美しさ 素朴さ 気高さを感じる
それを自然という言葉で包むには
あまりにも理解しがたいところがある



 晩秋

秋よ
そんなに私を責めないでおくれ
私は明日から始まる「学生の義務」の調べをしなくてはならない
だからこうやってトルストイを無理方程式に置きかえているのだ

あなたは来たる冬に備えて 不用な枯れ葉はすべて落とし養分を根に幹に十分に蓄え 万全の施をなさしめ
生物という生物にその教えを説いている
そして図らずもこんな日に太陽を連れて私の前に現れる

私はどうしても外へは行けない
あなたが楽しそうに彼らと笑いを交わすのを見ると
一人悲しくなってくる
私は生きるためのきたる冬の備えを
まるっきりしていないのだから
秋よ
私にどうすればいいと言うのだ


 思春

夜ふけ
小さな書物がか細い声で呼んでいる
数字と文字の木陰の奥で

ああ わからないー
又ちりとめのない不安が机の上に積もってくる


 海の見える町

誰一人 たずねる人のいない町へ行こう
誰一人 私の存在を不思議ならない古い街へ行こう

そして夜明けの 昼過ぎの 夕暮れの
堅い石だたみを歩こう
人が忘れたような時間を見計らって
クリーニング屋の自転車が止まっている
向こうから女学生が二人しゃべりながら歩いてくる
黒ねこが遠くの角をゆっくりと横切っていった
ただ それだけのさびた海の見える坂道
ああ そんなところがいいのだ


浜辺

ビロードの茂る 小さな島が
ひっそり浮かぶ湾に立って
澄み切った青い空を見つめていたら
それに向かって叫んで歌いたくなった
一人でいることがうれしく感じられる
そんな浜辺で
打ち寄せては引く魔法の手に
はき清められる宮廷の庭先を
壊しがたいもののように
思わず一歩下がって 大空に向かって



 虚栄心

頑張ってみたいダイヤモンドさ
オシャレをしたいネパールさ
見栄を張っている真珠なのさ
結局 彼らは石ころにすぎない
         9/30


 試験前

試験が終わると何もできないように
試験の前になると何かしたくなる
あの詩と
昔の詩と
自分の歌をよんで
ひとつため息をついた
何か新しいのが作れそうな気がして
部屋の一角に耳を傾けていた

下で柱時計がボーンとなった時
急に胸がざわめいて
あわててエンピツをにぎりしめた
12/2



 思い出

秋の日は君の思い出
遠い日の春のように

靴音が夜霧にとけ
恥ずかしいげな肩が
こんこんと触れ合う頃
セルの一つ一つが核のごとく
火を吹いていた

小石が目をつぶって二人の通るのを
そよ風が吹くように感じていた森の中で
歌を捧げ どこまでも明るくだけの
散歩だったが

のっぺり透き通る空の
まだらに光る白い雲に
とどめえぬ思いを一人託し流し
遠い北の空に向かって
そう いつもの言葉を叫んでいた

思い出 新しい人への願い
その人もさびしそうな目を持っている

思い出とは新芽にあたる春風のよう
さわやかな感覚を与えた後
必ずやるせない音が聞こえる

こんなに早く晩秋が来るとは
授かった十本の矢は
どうしてか二本と打ち込めなかった

晩秋の備えは無防備に近い
ああ 石垣の崩れる音がする

口づけも手を握ることも
空しく夜風と共に散り
苦しんだ夜の舞台に今日も一人立つ

会っても山の話 岩の話ばかりしかしない
イヤじゃないけど淋しいという
そんな瞳はいつも何かに耐えているよう

君が横にいても視野に入らず意識に至らず
素晴らしい友になったと思いつつ
だんだん冷たく氷っていくことに気がつく

明日の約束は遠い日の思い出
整った髪はどうかすると踊り狂いそうな気配
もれ出る言葉を拾い拾い
またつなぎ合わせてどうにか歩いた小道

日が落ちようとしている
二度と登ることのない日が
いつかあなたに赤く染まり
甘くよって咲いていた花も
今は大海の花びらと化し
波にもまれて一つ一つ
思い出を胸に遠く深海へと消えていく

日が落ちようとしている
最後の力を出して燃えながら
私はよく走ったものだ
あなたに向かって
誰にもましてあの優しかった言葉を伝えようと


 愛 T

見せるだけの飾りものの花 それは私のお前ではない
お前は私の上に羽を広げてとまり
私を地面にひれふさせ崇高させ
満足しながらほほえんでいる
私はかすかな光も避けてお前を見上げる
それでもまぶしくて一層頭を低くする
しかし私のお前は高慢なクジャクのしっぽではない
優しく手をとって体の泥を白い指でふき取り
あたかも私がやったように地面にひざまずくであろう
そのきらびやかな瞳と透き通った髪と泉の水を
たたえた唇を私に捧げ
きっと涙で私の足を濡らすであろう
私は恐れおののき一歩しりぞきまことのお前を見ようと努める
お前の香りは私を半分酔わせている
よってそれがまことであろうとなかろうと
お前が私から去って遠くへ行くまで愚かにも分からないであろう
だからこそ走りよってお前の手をとり
お前を信じるとつぶやきあまり口吻を与えているのだ
11/6

 愛 U

愛というかげろう
誰がそれを確かめたと言う
星のまばたきはその存在を示す
いくら遠くてもそれはいる
しかし光のない星を探すことは
ただの想像に終わってしまう

愛というかげろう
それを信じて踏み切る人
恐ろしい結果としてすべてに盲目になる
目がさめて夢を知った時
また視界が明白になる
その範囲 前より広くなることに気がつく

愛というかげろう
空が澄みきった日
美しく登るのを見たという
その人はいつまでも見たとは言わなかった
それを見たいと願う人多く
彼らは足元に登るそれに気づかない
隣の人の足元にも

愛というかげろう
色も音もそして重さも匂いもない
と聞かれても知らない
雪のように白く聖夜のハレルヤのように美しいく
一面に花の香りがするかもしれない
青い海のように深さがあり光のごとく
速さがあるのかもしれない
私はそのすべてを知らないと答える

愛というかげろう
私はその中に立っているのを信じる
その暖かさを瞳に感じたい
その喜びを永遠のものにしたい
空しいとの彼らの笑い
愛とは批評するものですか
頭で計算して言葉で答えなければ
「ない」と決めてしまうのですか
人間とは何と価値のあるもの
盲人がかげろうの中に立っている 11/27
  

 時

時は降る
雨をもって 恐れをもって
夜雨の情 優しい子守歌を奏じ
何知らず深く机に没する私
包まれて腕の中でどこをさまよう
世は雨を恐れぬ 貫録の勝利
ふと目を開いた私
なぜに雨を恐れる
不安と後悔がこんなにもノートにつもり
時はいつも私を振り回す
偉大なプレス
雨よ
雨の糸は冷たく
人形の私 また筆に向かう



 ムウルフ

荒原に北国の使者が来た
ムウルフを知る者はなく
ムウルフは知られることなく
なくそれでも小高い丘に立っていた
夕焼けの空の海は黒い大陸を宿して
星の生まれる時のように
真っ赤に火を吹いて燃えていた
ムウルフよ
もっとほえろ
もっとほえて
新しい土地を求めてこの地を去る決心をしなければ


 クリスマス・プレゼント

あの優しい視線を積もらせ
あの可愛い指の感触を織りこませている
スタンドの下のマフラー
唇の下のマフラー
妙に大人っぽい配色だ
しばらく目をつぶっていたら
その端が下へ流れおちた
力いっぱいにぎりつけると
ミルクがほとばしった
愛されていることが顔の中いっぱいに感じられる



 師走の街

二度と喜びがもたらされた今宵
脳波の中を幸せが飛び回っている
愛することを呼び起こし
愛されていることをそっと耳うちした
師走の星空は
青い二つの影法師にはじらいふれ合いを


 迎年

このまま年の暮れるのがおそろしい
できるならあの振り子の下にでももぐり込んで
しばらく眠っていたい
気がついた頃にあの人の年賀状が来ていたら



 あの頃を求めて

思い出と散歩がしたい
あの人知れぬ山の中のひっそりした
青い藻の揺れ動く池に行ってみたい
空があるのかないのか分からない昼過ぎ
川向こうの赤く焼けた山がだんだんと青く
そして白くなって遠くへ続いていった
二年ぶりだなあ
この鳥居をくぐって続く白い道に
あの頃の生きた生活が今でも残っているかしら
性を感じ出した頃の意欲的な生活が



【山の詩】

           
 青春

焼板にぶたの油をぬったように
背にあせがテカテカ光る
ドクドク動く腹に玉が流れおちる
滝のようにとどめなく
ぶっけてぶっけて堅い胸に
パンチをくらいじっと歯をくいしばり
ひきさく肉の痛みに耐えている
そんな姿は美しい
苦しんでいる時は苦しい
しかしそんな時にこそ つらさにもがかず
くいしばる口もとに浮べよほほえみを
それが我らの持つ若さじゃないか
涙なんかなんだい
あせとともに流してしまえ
夏の青春とは流れるあせの量で決まるんだよ
9/2

 人と岩と

うなだれて連れ去られた人
点々と岩に散っている鮮血
ベットリと赤く染まった手袋
その一つ一つが私をあてどもなく
暗い闇に誘う
今軽く勇んだ心に
この岩壁が冷たくあざ笑うように見下す
それでも私は登らなければならない
悪魔がよこしたアリとハチが
赤い小さな湖に口をつけてうまそうに吸っている
なんという残酷な光景だ
息が詰まってむらむらとした敵意が
何かにぶち当たるようだ
しかしそんな私が
アリをハチをそして人の天にもまさるそれを
足の下におき無情にも登ろうとしている
9/23



 非情の岩

堅い冷たい屏風の中に
虹の蜘蛛の糸がたれている
素朴な技と
素朴な具を持った小さな虫が
天も地もためらい
一人砂漠の砂をかんでいる
9/20


 ザイルの世界

張りつめたザイルに
張りつめた空気が跳返る
かすかに伝わる手足の震えが
微妙に私の心を突く
あそこの世界は孤独な世界
花の咲く庭があると思えぱ
ちらつくナイフの光が見える
イケーン イケーソと谷間にこだまし
淋しくないて ハiケンが打ちこまれる
あの人の命は私のこの手と
この一本の細いはかない指切りのような
そんなザイルに託されている
それでも張りつめたザイルは 彼に私に
鋼のその輝をみせている
9/23


 躍動

薄青く白い夜霧の中に
米粒の灯が見えた
六千度の太陽をかかえた灯
薄青く白い夜霧のもう一方で
米粒の灯が見えた
ウランの工場を引きずっている灯
薄青く白い夜霧の中に
突然返り振り向いたライトの光が見えた
純情ののやらかい武器
理性の決闘とリンチ
そろそろ無数の水蒸気が震え出してきた


 夜行登山

氷ったハイウェイに
さっきから淋しい歌がひとつついてくる
毛糸にくるまった躯が六つ
カラコロと影を引いて
白いセンターラインを歩いてゆく
やるせない不気味な人気
星の彼方まで続くかと思われる
冷たい道

なんで歩いている
なんで歩いてゆく

わかるもんか
何のためでもあるもんか

木枯らしは脳の奥深くくい込む
やるせない不気味な人気
星の彼方まで続くかと忠われる
冷たい道