じゃのめ見聞録  No,2
  
  続・「オランダ売春業合法化」の伝えられ方


 2000.10.1日付けの毎日新聞以外に「オランダ売春業合法化」について、ほとんどのマスコミは伝えませんでした。予想外というか、拍子抜けというか、良識ある懸命な態度をとったというか、いたずらに国民に妙な関心を抱かせないように配慮したというか・・・、私から見たら、各マスコミはただ確かな情報が手に入らなかっただけのような気がしますけれど。そんな中で、『サンデー毎日』だけは、毎日系なので、あの新聞記事の後、次のような短い記事を載せていました。(以下は全文です)

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  オランダで売春業合法化「飾り窓」へ堂々行ける?

 ”自由と寛容の国”オランダで、10月から売春業者が合法化された。売春婦(夫)そのものは1912年施行の売春管理法でれっきとした「自由業」として認められているのだが、セックスクラプや「飾り窓」の経営者はこれまで正式な仕事として認められていなかった。
 どうして今さらの合法化かというと、近年、オランダでは売春婦の強制労働や不法滞在、18歳未満の若年就業が急増しており、政府がこの取り締まりに本腰を入れることにしたためだ。これまで「正業ではない」ことで、万事がいい加滅に済まされてきたこの業界を「正業化」することによって、従業員(売春婦)の管理や納税義務を他の職業と同じように課そうという狙いがあるのだ。
 300軒以上の「飾り窓」が建ち並ぶアムステルダムの赤線地区は今や、観光名所の一つだが、そこで働く1万人以上の売春婦たちの素性は、この数十年、大きく様変わりした。70年代までは大半がオランダ人だったが、80年代に入ると東南アジアや中南米、アフリカからの出稼ぎ移民が増えた。そしてベルリンの壁の崩壊とともにロシアや東欧の女性が急増し、今ではオランダ人は全体の3割程度だ。
 新参者の増加によって30分200ギルダー(約9000円)という売春相場も頭打ちとなり、経営を維持するために手段を選ぱず東欧諸国の女性を集め、強制的に働かせる業者も目立ち始めた。今後は役所の営業認可が必要となり、不法移民などの雇用も禁止される。売春婦の働く環境も改善されるはずだ。
 オランダのセックス産業は年間20億ギルダー(約900億円)を生み出す巨大産業だ。政府とて業界をつぶすつもりはなく、合法的に行ってくれればよい」(内務省)。
 もっとも、晴れて「かたぎ」になった業界は、「余計な設備投資はかかるし、はっきり言って迷惑な話だ」とぼやいているが・・・。
『サンデー毎日2000/10/22』
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 どこまでが信じられる記事であるかはわからないが、字面を読むだけで前回気にしていたことのいくつかのことがやはり見えてくる。この『サンデー毎日』の記事では、毎日新聞が使っていた「完全合法化」という言葉は使われていない。私の疑問は、この「完全」という表記をめぐって投げかけられたものだったのだから、『サンデー毎日』でこの表記が使われていないということは、やはり毎日新聞の表現がおかしかったことを思わざるを得ない。そんな「表記」なんぞどうでもいいではないか、たいしたことじゃないやないか、と思われる人もいるかもしれないが、私は依然こだわっている。
 ところで、今回のこの『サンデー毎日』の記事の中身であるが、再度要点を書き出すとこうなる。


 、売春婦(夫)そのものは1912年施行の売春管理法で「自由業」として認められているのだが、セックスク   ラプや「飾り窓」の経営者はこれまで正式な仕事として認められていなかった。
 、どうして今さらの合法化かというと、近年、オランダでは売春婦の強制労働や不法滞在、18歳未満の若    年就業が急増しており、政府がこの取り締まりに本腰を入れざるを得なくなってきたから。
 、この業界を「正業化」することによって、従業員(売春婦)の管理や納税義務を他の職業と同じように課そう   という狙いもある。
 、そこで働く1万人以上の売春婦たちの素性は、この数十年、大きく様変わりした。70年代までは大半がオ   ランダ人だったが、80年代に入ると東南アジアや中南米、アフリカからの出稼ぎ移民が増えた。そしてベ    ルリンの壁の崩壊とともにロシアや東欧の女性が急増し、今ではオランダ人は全体の3割程度だ。
 、経営を維持するために手段を選ぱず東欧諸国の女性を集め、強制的に働かせる業者も目立ち始めた。今   後は役所の営業認可が必要となり、不法移民などの雇用も禁止される。売春婦の働く環境も改善されるは   ずだ。

要点はこの5点ぐらいになるだろうか。この、それぞれの項目は、それぞれにとても深刻な問題を抱えていると私は感じる。これを見てもわかることは、オランダでは「売春」を「完全合法化」しましたよ、というような脳天気な内容ではないことがわかる。特にオランダという国が、今とっても困っている様子がここから読みとれる。それは「売春婦の強制労働」「18歳未満の若年就業」の急増であり、「外国人女性」の出稼ぎや不法移民、不法滞在の増加の問題である。
 こういうオランダ特有の社会構造に目を向けないで、オランダでは「売春の完全合法化」がされましたよ、なんていうわべだけの紹介を新聞でするのは筋違いだと、私は前回感じたのである。「売春の完全合法化」と言えば、いかにも今まで「売春」を公に認めてきた上に、さらに「完全」に何の不都合も取り除いて「完全」に認めましたよ、というふうに読めてしまうことに、私は強い疑問を感じていた。案の定、今回の『サンデー毎日』の記事は、そういう脳天気なイメージの「完全合法化」なるものではないことを紹介していた。
 こういうことは、日本でも、東京都の石原知事が、「東京都の外国人人口の増加」問題で繰り返し不穏な発言をしていることと、関連がある。先進国の大都会は、こういう風潮にどこでも見舞われている。そこで国籍や言葉や能力や技術をもたない「外国人」がなんとか生きてゆくためには、そんなものがなくてもてがるにできる「仕事」で「金」を稼ごうとするようになるのは理解できる面がある。だから大都会でそういう「仕事」をする人々を「さげすむ」ことで事がすむわけではないことは良識ある人にはわかるだろう。しかし、そういう事態への「理解」と、「売春」を「職業」と認められるのかという議論とはまた別なのだ、と私は感じている。