じゃのめ見聞録  No.77

   小説『デミアン』で描かれた「いじめ」


2007.1.20


 ヘルマン・ヘッセの小説『デミアン』は、主人公が、同級生からお金をせびられてゆく話です。はじめは小遣いを、それから要求される金額が増えてゆきます。貯金箱を割って持ち出し、そのうち親の財布から金を持ち出して渡すようになり、ついには、自殺をしてしまいたいと思い悩みます。今で言う「いじめ死」です。作品はでも1917年に書かれていますから、いつの時代でも、こういうひどいことは起こるんですね。
その金銭の脅し取られてゆく深刻な過程は、まるでヘッセがそういう体験をしていたかのように具体的で生々しいものです。事実ヘッセは15歳の時に「自殺」を試み失敗しています。
私はぜひこの『デミアン』を読んでいただきたいと思います。問題は、そんな死にたくなるような状況から主人公はどうして抜け出せたのかということです。ここに主人公の友人の「デミアン」という青年が、彼を助けてくれることになります。「デミアン」は直接にその恐喝する同級生に「談判」をしにいったのです。そこで彼がどんな話をしたのか、作品では明らかにされていませんが、その「談判」があってから、ぷっつりと「恐喝」が止みます。恐喝していた同級生は、「デミアン」からかなり強烈な何かを言われたのです。その「中身」を考えることが私たちの役目です。
 おそらく恐喝していた同級生が、「自分の身が危なくなるようなこと」をデミアンに言われたのです。それは事態がオープンになるような手だてのことだったと思われます。そうすれば、お前たちは法で罰せられるし、学校にも来られなくなるぞ、というようなことを「デミアン」は淡々と言ってのけたようなのです。
 ひた隠しにしている間は、事態はどんどんと深刻な方へ、いじめる側の思うがままに進んでゆきます。しかし、いったん、そういう事情を「公けの場」に出してしまうと、いつまでも「ひどいこと」は続けられなくなるのです。「公けの場」への「橋渡し」してくれる者のイメージを、この作品から、うまくつかみだしていただけたら幸いです。

                          『MOKU』 MOKU出版 2007.1