じゃのめ見聞録  No.74

   「かごめかごめ」考


2006.11.10


 「かごめかごめ」は不思議なわらべうたである。柳田国男は、この歌の中の「かごめかごめ」の歌詞を「屈む」意味だと指摘し、別な人は「囲む」意味だといってきた。真ん中にいる子供は、屈んでもいるし、囲まれてもいるのだから、どちらでもいいような気がするが、私はこういう歌の中に、昔の人々の「時間」というか「時計」の意識が歌われているところが心にとまってきた。
「わらべうた」だから子供っぽい歌だと考えると大事なところを間違えてしまう。「ずいずいずころばし」の歌も、「転ろばし」「茶壺」「どっぴん」「抜く」「お茶碗」「欠く」と歌っているが、それらはたぶんに性的な表現であり、「お父さんが呼んでもお母さんが呼んでも行きっこなしよ」というのだから、けっこう巧みに性的なものを歌っていたことが指摘されてきたからだ。
 「かごめ」の歌の中の「籠の鳥」も、江戸時代の文献では、遊郭の女性のように意識されていたらしい。そこから「いついつ出やる」と。ここには庶民の「時」の意識がある。この歌の歌詞の奇妙なところは最後の「よあけのばんに、つるとかめがすべった、後ろの正面だあれ」と歌うところであろう。「よあけ」でありながら「ばん」であるような微妙な「時」の中で、「つるとかめがすべった」という。もともとは「つるとかめが」ではなくて「つるつるつっべえった」と転ぶさまを歌っていたらしい。「ころぶ」というのは、「ずいずいずころばし」の「ころび」と同じで、昔の遊郭の隠語で「性行為」のニュアンスがある。
 そして「後ろの正面だあれ」とくる。これはどういう意味だろう。後ろのものを当てる遊びに「ダルマさんがころんだ」というのがあるが、吉野裕子さんは、そこでの「ころぶ」という言葉も、遊郭の隠語だと指摘されていた。私は、この遊びにも、「人当て」とともに、「だ・る・ま・さ・ん・が・こ・ろ・ん・だ」と数(時)を数えるものがあるところに興味をもつ。「後ろの正面だあれ」つまり「自分と入れ替わる人だあれ」という願い。そこでその人を当てたいと思う。「かごめかごめ」には、夜から朝へ、籠から籠の外へ。時を数えて何かを待つ庶民の切ない願いが、どこか込められきたような気がするからだ。

                                      京都新聞 2006.11.3