じゃのめ見聞録  No. 59

「月光仮面」に出会う


2005.8.1



 精華町にできた「国立国会図書館」にはじめてでかけていった。巨大な図書館だった。あまりにもりっぱな受付なので、私の読みたい本の題を書いて出すのがためらわれた。その本は、私がどうしても読みたかった本で、でもどこを探しても見つからず、最後の手段でこの図書館で検索してみたら見つけることができた。本の題は、『月光仮面は誰でしょう』。いい年をしたおっさんが、わざわざ国立国会図書館まできて借りるような本なんですか、と受付の人に見られているようで恥ずかしかった。

 知りたかったことは、いろいろあった。まだどの家も貧しかった時代、テレビのある家に見せてもらいに行って、必死で見ていたあの「月光仮面」。漫画でも見、風呂敷をマントにし、ピストルの撃ち合いのまねをして遊んでいたあの頃の「月光仮面」。あんな面白いものを、いったい誰が、どのように構想し作っていったのだろうか。そんなことが気になっていたのだ。人から見たらどうでもいいようなことかもしれないが、子どものことを考えるときには、自分が生きていた子どもの時代について思い出すことが不可欠だと思うところがある。

 昭和33年、国産第一号のテレビ映画としてつくられたこの作品は、「鞍馬天狗」の現代版として構想され、アメリカの「スーパーマン」のような超能力を持たない人間臭い主人公にするという高い志しをもって構想されていったのだが、なにせ低予算で作らざるを得なくて大変な苦労があったようだ。しかし、調べていってわかったことは、恐ろしい「サタンの爪」をやっつける「月光仮面」が、PTAの反対にあって中止をさせられていったという経過だった。子どもたちに有害な影響を与えるという理由からだそうだ。原作者の川内康範はそのことに抗議し、当時の『中央公論』に「月光仮面の逆襲」という長い優れた論文を書いていたこともわかった。

 当時のことは、資料を調べればいろいろわかってきたのだが、心の中に残っている「月光仮面」のことは、資料を読んでわかったということにはならない。「月光仮面」、それは子ども時代にしか出会えない不思議な支援者の形をしている。

                                  京都新聞 2005.7.29