じゃのめ見聞録  No, 40

奇跡の食べものについて

2004.1.30


 奇跡の食べ物についてさて、イエスは聖霊に満ちて、ヨルダン川からお帰りになった。そして、荒れ野の中を``霊"によって引き回され、四十日間、悪魔から誘惑を受けられた。その間、何も食べず、その期間が終わると空腹を覚えられた。そこで、悪魔はイエスに言った。「神の子なら、この石にパンになるように命じたらどうだ。」イエスは、「『人はパンだけで生きるものではない』と書いてある」とお答えになった。(ルカによる福音書4章1〜4節

 おはようございます。今日は「奇跡の食べ物」という題をつけました。私たちには思い出の食べ物があると思います。私は大学生のときに奥さんと知り合ったのですが、最初に出会ってしばらくして「アルバイトしたから奮ってあげよう」ということで食事を奢ってもらいました。それはお寿司でした。好きな食べ物というのではなく、何か記憶に残るような、思い出のある食べ物はきっと皆さんのなかにあると思います。今日はそういう個人的な思い出の食べ物ではなく、人類にとって、とても思い出にならないといけない食べ物についてお話をしたいと思います。それがこの「奇跡の食べ物」という題にさせてもらった理由です。僕は地図が好きで、なぜ地図ができたのか調べています。日本のそして世界地図はどうやってできたんだろう、どうやってあんな上から見るものができたのだろう、ということに興味があって調べていったのです。あるとき世界地図はどうしてできたのか気になり、だったらそれを発見したコロンブスのことを調べようと勉強しました。その副産物で今日お話するようなことが勉強できたのです。コロンブスはアメリカを発見したわけではなく、今のキューバのあたりを発見していきます。その結果彼は今の南アメリカを発見する糸ロをつかみます。その糸ロを通してスペインの兵士たちがたくさん南アメリカに渡っていきました。その過程でインディオの人たちを何百万も虐殺してゆくようなことが起こってゆきます。それは特にキリスト教の伝道という名のもとに、異教徒を回心させるという目的で実行されてゆきます。その過程で本当にたくさんの村の人々が殺されていったのです。ただ、なぜそんな事が起こったの力\なぜ今の私たちがそういうことを知っているのかというと、それに同行していたラス・カサスという神父さんがいたのです。そして彼が「我が国のキリスト教徒たちが異国の地で大変な事をしている」とスペインの国王に報告したんです。これがその本ですが、この中に信じられないような虐殺の数字が挙げられています。そして彼らはそこで発見した黄金を大量に母国に持って帰っていくことになります。ところで、この当時のスペイン人は、もう一つ、大事なものを持ち帰っていたのです。それが「奇跡の食べ物」なのです。それは何かといいますと「ジャガイモ」です。スペイン人にインディオと呼ばれる人たちは3〜4干メートル級の高地に住んでいました。そんなところに育つ食べ物はほとんどありません。トウモロコシでもだいたい3千メートルあたりまでしか育ちません。しかしジャガイモは4干メートルのところでも育ちます。アンデスは昼は暑く夜はかなりの低温になり、雨も降らず肥えた士地はありません。その荒れた土地にインディオたちは/万年も前からジャガイモを食べられるように品種改良してきたのです。それは私たちが知っているようなジャガイモではなく、赤や黄、黒、紫といったいろんな色をして、形もクロワッサンのようなものもあれば玉ねぎのようであったりと様々な形をしています。なぜそんな色々なジャガイモをつくってきたのかというと、雨の降らないやせた士地で、その年その年に植えたジャガイモの中からどのジャガイモが育つか分からないからです。ジャガイモはとても栄養分があり、たくさん採れます。夜になるとカチカチに凍り、それを朝になると踏み潰して水分を出し、今でいう乾燥食品にします。そうすると何年も保存して使えます。スペインの人たちは、アンデスの人たちがそういう食べ物を作っていたということ、土の中に育つなんていうものは奴隷の食べるものだと思い評価しなかったのですが、ポケットの中に入れてヨーロッパに持ち帰ったのです。その頃ヨーロッパでは(日本でいいますと信長の時代でしょうか)パン、トウモロコシを食べていました。持ち帰られたジャガイモは「何やら変な食べ物が入ってきたぞ」と関心を持った人たちによって徐々に広がっていきました。そしてヨーロッパが戦争などで飢饅になり、食べ物がなくなっていったときに、人々を根底で救ったのがこのジャガイモだったのです。ジャガイモは調理法もじつに簡単です。今日読んでもらった聖書にも「人はパンのみで生きるにあらず」とありますが、そのパンを作ろうとすると大変な作業が必要です。ところがジャガイモはただ火にかけても食べられます。ちょっと如でただけでもとても美味しい。ビタミンもたくさん含まれている。栄養価が高く調理が簡単だということで、本来なら大飢饅で多くの死者が出るところで、ジャガイモがヨーロッパの人々を救ったのです。本当にパンだけでは生活できないときに、キリスト教徒を救ってくれたのが、じつはインディオが長い間品種改良してきたジャガイモだったというわけです。しかしジャガイモはすんなりとヨーロッパの人たちに受け入れられませんでした。今のジャガイモを見てもらってわかりますように凸凹していますよね。当時はそれがハンセン病にかかった人の皮膚のように思われて「魔物の食べ物」として、長い間キリスト教徒は食べなかったのです。でも飢えには勝てず少しずつ食べはじめてこの食べ物のよさがわかってきます。その後、ジャガイモはイングランドやアイルランドに渡り、そして北アメリカに広がっていきました。ヨーロッパの人を救い、次にアメリカに渡り、アメリカの人たちを救ったのが、じつはインディオの「ジャガイモ」だったというわけです。私は思うのですが、今皆さんはファーストフードでフライドポテトを食べますよね。皆さんもジャガイモの恩恵をうけているのです。それはほんとにただのジャガイモなんですが、そのジャガイモにはそういう歴史があるのです。特に、たくさんのアンデスの人たちの血が流されてヨーロッパに伝わり、それがヨーロッパの人たちを救っていったものであるというイメージでジャガイモを見てもらえると、「ジャガイモってすごい生き物なんだな」と思えます。私はそのことがわかってから「こいつはすごい生き物だ。過酷なところで生き抜いて、たくさんの人を救ってきたすごい生き物なんだ」と思って食べることにしています。とっても美味しくなります。今日の聖書の「パンのみに生きるにあらず」という本当の意味と、今日のジャガイモで生きてきたという話は直接にはつながりません。しかし、ジャガイモもきっと奇跡の食べ物ではないかな、と私は思うのです。2003.12.18今出川(児童文化)