じゃのめ見聞録  No, 32

K市子ども文化センター構想
ーK市子育て支援ネットワークの広がりの中でー

 


はじめに

 2002年4月から、学校5日制が実施され、子どもたちは、実質一年間で200日しか学校へ行かなくなりました。その結果、160日は地域や家庭で過ごすことになっています。この160日は、しかし大人の言う「余暇」ではありません。「子どもの時間」なんです。しかし、このまま周りから何んのアイデアももたらされなければ、この時間を子どもたちは、単なる「何もしないでいい時間」と勘違いして、家でゲームをしたり、町へ繰り出して遊びほうけたりしてしまいかねません。もちろん、ただ塾や習い事に強要される子どもたちも出てくることでしょう。いったい、この「160日」とは何なのでしょう。これは、日本の戦後教育史がはじめて直面する、子どもにとっても、親や教師にとっても、「大問題」だと思われます。

 文部科学省は、「つめこみ教育」ではなく、「ゆとり」ある教育をめざす、という目的で学校5日制を思案してきました。「ゆとり」がないために、自分のことをするだけでせいいっぱいになり、人のことを考える余裕がない子どもたちが増えてきているのではないか。だから、せめて、土曜日・日曜日を連休にして、そういう時間を使って「多様な奉仕活動」や「体験活動」や「ボランティア」をさせることで、人のことも考えることのできる子どもたちを育てようというわけです。

 そういう施策がとられる背景には、確かに近年、若者の間に公共意識や道徳意識が希薄になり、愛国心などが失なわれ、身勝手で自己中心的な犯罪に走る未成年者が増えてきているという現状認識と危機感があります。そういう認識に立つと、対策としては、「共同性」を失いつつある子どもたちに、強制的にでも「奉仕活動」や「体験活動」や「ボランティア」をさせることで、人のためになる「共同の体験」をさせるいいのではないかと考える方向もでてきます。

 そこで、そういう活動のできる土曜日・日曜日の連休をつくり、そういう時間帯を「週末活動」なる用語で呼ぶようになってきています。ここにきて「160日」が単なる「週末の時間」のようにとらえる発想が出てきているのです。しかし「160日」とは、そういう「週末活動」の時間ではありません。そういうふうに「160日」を考えることは、考え方としては、大変不適当なものです。

 「200日」を学校で過ごし、「160日」を学校以外で過ごすことになったということは、本来の筋道で考えると、この「160日」は、学校の発想(これをカリキュラムの発想と呼ぶのですが)にとらわれない、子どもたち自身で企画立案する、自治的、自主的な活動(これをプランニングと呼ぶのですが)を作り出す「子どもの時間」の取り戻すことができるようになってきた、と受け止めることができます。

 (ここでいう「カリキュラムの発想」とは「先生が決めた教育課程を実行する発想」のことで、「プランニングの発想」とは、「子ども同士が自主的に活動プランを立てて実行する発想」のことです。これは、どちらが大事というのではなく、両方がバランスよく組み合わされるのが望ましいことは言うまでもありません。)

 ここでいう「学校以外」の過ごしというのは、「地域」で過ごす暮らしのことです。21世紀なって、ようやく「学校の時間」と「地域の時間」が、二大時間として公に認められるようになってきたというわけです。これは、画期的な出来事であり、「子どもの時間」が奪われつつあったことから考えると、願ってもないことになってきたと考えることができます。

 にもかかわらず、学校や文部科学省の中には、この「160日」を、「総合学習」という名の下に、学校教育の発想(「カリキュラムの発想」ということですが)を広げて、この時間を使うように先生方を指導する傾向もでてきています。先生方も、この「160日」を、どういうふうに使えばいいのか、ただ学校教育の発想(カリキュラムの発想)で、「総合学習」としてつぶすだけでいいのだろうかと心配されてきています。そもそも「160日」を学校の枠組みから外して考えようというのがもとの発想にあったのですから。ですから「カリキュラムの発想」しか持てない先生の間では、この「160日」はとっても困った「問題」になってきているのも事実です。
 問題は、この「160日」を、「地域の時間」「子どもの時間」としてちゃんととらえ直す視点が持てるのがどうかということにかかっています。

 とくにここでいう「地域の時間」ということがとても大事な考えからになってきています。これからの「地域」というイメージは、従来の中央に対する地方や周辺・辺境のようなイメージではありません。また、「地域の学習」といえば、きまって昔の伝統や文化を、そのまま学ぶようなイメージでとらえられていることがあります。しかし、「地域」というのは、そんな単なる「昔の場所」ではありません。

 「地域」には、昔も今も、必ず世界とつながっている「窓」があります。そういう、その地域独自の「窓」の所在を知ることによって、地域を学びつつも世界にでかけてゆく道筋を学ぶものです。そして実際に世界に出かけてゆくことを体験することもできるものなのです。そして、世界を見聞きして知り得た目でもって再び地域の良さを見直し、地域に戻ってくることも起こります。

 そういう「地域」を知ることが「世界」を知ることにつながるように学ぶことを「地域の時間」と考えるのです。
こういう時代の流れの中で、文部科学省は「地域の教育力」を強調するのですが、「地域」の発想の中にあまり「教育」の文字を持ち込みすぎてもいけないと思われます。それをいうのなら「地域の構想力(地域のプランニング)」というべきで、地域を世界につないでゆく筋道を組み立てることのできる、そういう「構想力」を、子どもたちと一緒に創り出してゆくこと、それがこれからの「地域」に問われていることであると思われるからです。
ということは、「地域の時間」に、子どもたちが自分たちの企画立案力で共同して「地域の窓」を探り当て、そこから見える道をたどって世界に続く道を勉強するということです。こういうことは、生きた学問・教科(地理・歴史・理科・算数・語学)を学ぶことになり、ただ「いい点数」だけ個人的に獲得することを目的にしてきた従来の学校の学習と異なった「学びの世界」を体験することになってゆきます。

 さらに、こうした、世界と切り結ぶ子どもが育つことは、自ずからの「人権」を自覚する子どもが育つことでもあり、それはひいては「市民」としての権利と責任をもつ若者に育ってゆくことにもつながってゆきます。こういう筋道で、「地域の時間」「地域の構想力」を体験することが、自然な形の「地域の共同性」を体験することになり、そういうことが、無理矢理に「奉仕活動」などを押しつけなくても、すぐれた公共精神を身につける子どもが育ってゆくことが期待されます。
 「K市子ども文化センター」構想は、こうした時代の要請を正面から受けて立つK市独自の政策で、今後の日本に求められる子ども像をしっかりと見つめる構想になっていると考えています。



   子ども文化センター構想

この構想は、K市の行政と民間の活力が協同することではじめて実現できる構想です。


1 子育ての支援ネットワークの必要性

●孤立している親子のために
 K市のワークショップでの悩みに、子育てを親子だけでしていて、他の子育てをしている人の情報が欲しいと思って人が多いということでした。
 子育てを、親子だけでするのは、とってもきついもです。密室で子育てすることで、言うことを聞かない子どもに、知らぬ間にせっかんや虐待をしていることがあります。そういう虐待をする自分事で悩んでおられる親御さんもおられます。
そんな親御さんのために、子育ての仲間作りのための情報発信のネットワークがどうしても必要です。

●子育てグループで活動できている人たちのために
K市にもたくさんな子育てグループが活動しています。
グループに参加してよかったことは、子育てのしんどさを、わかりあえて、お互いに励まし合ったり、支え合ったりできるし、先輩の子育ての智恵やノウハウを聞いて、それを実際の暮らしに生かすことができてくることです。
まさに、子育ての中で、親も親育ちをしていることがよく感じ取れるからです。
そんな子育てグループにも「悩み」があります。
たくさんの子育てグループがあるのに、それぞれのグループがどういうことをしているのか、よくわからない。お互いのすぐれた活動の情報が交換できていない。
 それから、何年も続いているグループの活動の経験が、うまく次の世代に伝わらずグループが自然に解散してゆくことがある。これでは、もったいない。もっと、子育ての経験を残して伝えてゆくことはできないものか。

 ●仕事をしている母子、仕事をしたいと思っている母子
 さまざまな理由で、仕事をされている親御さんがおられますし、これから仕事をして子どもを保育所に預かって欲しいと思っておられる親御さんがおられます。仕事を持っての子育ても悩みます。どうしたらいいでしょうか。



    子育て専用のホームページを開設する

★こういう「子育ての悩み」を解消するためのもっとも求められているのが、「子育て専用の「ホームページ」を解説するという課題です。



〜相談や書き込みができるHP

このホームページを開けば、さまざまな、子育てグループの活動情報がわかることになりますし、自分の子育ての悩みを書き込む掲示板も設けられています。

★悩みの書き込みに対しては、子育ての先輩であれば誰が答えてあげてもいいし、複数の返事があって、自分に出来そうなことをそこから選ばれていいようになっていると良いいと思います。特に、仲間同士の助言のし合いというのがとってもいいと思います。
先輩の助言は、子育ての智恵の継承にもなりますからね。

★保育所や幼稚園の先生からの助言や、家庭児童相談室からの助言もあっていいと思います。

★病気らしきことへの助言は、保健婦さんや看護婦さん、小児科の先生にも参加して頂いて、書き込みの助言をして頂き、必要があれば専門機関への紹介もしていただけるとありがたいと思います。

★保育時間の延長、夜間保育、休日保育、やむを得ない事情でそういうことを、求められる親子がおられるでしょうし、そういうことでの悩みをHPに書くというのもいいと思います。仕事を持ちながら、親子で育ち合うことの大事さを考えてこられた先輩の助言がそこで聞けたらなおさらいいと思います。

★そこから、職場で子育て環境への配慮をお願いするアピールをするというのも、いいかもしれません。



〜子育て地図

★このホームページには、K市の遊び場や、子どもが集まれる場の地図の紹介がされていますし、子育てグループの活動している場所もわかります。

★ぜひ子育てグループ同士の情報の交換の場にもしていただけたらいいと思います。

★もちろん、保育所、幼稚園の場所、夜間保育、一時預かりの場所なども一目でわかる場所も地図に乗っています。

★もちろん、公民館、体育館、図書館など、公共施設の場所もわかります。

★もちろん小児科、歯医者など、子どもの世話になる病院も地図に書かれています。



〜生活情報が手に入る〜

★子育てを過ぎた人が、いらなくなったベビー用品を譲ってくれたり、安く分けてくれたりするコーナーもあります。

★お得でお安い季節の野菜や食料の紹介もあります。台所が助かります。

★ちょっとしたおやつやお菓子の作り方を紹介してくれるコーナーもあります。

★生活の知恵を持った人が自由にこのホームページ内にそういうコーナーを作りだしてくれればいいと思っています。



〜行政の情報ももちろんです〜

★行政の情報ももちろん、乗っています。公報に載っているのと重なりますが、いつも広報を持ち歩くことができませんので、ホームページを開けば、そのつどの必要な行政の行事や連絡事項はすべてわかるようにしていただきたいものです。

★各保育所や幼稚園の行事などの紹介もしてもらって、その時期に、どこでどういう催し物があるのか、一目でわかるといいと思います。





   ホームページを立ち上げてくれる人と場所

こんなに必要性のある「子育て支援のホームページ」ですが、それを置く場所がただちに求められます。それをまず「子ども文化センター」に担って頂きたいと思います。
 それから、そういうホームページの開設を引き受けて下さる人材が必要です。すでにノウハウをもっておられて、ボランティアでやって下さる方など、いろいろ募集されるといいと思います。
はじめは簡単な形からはじめて、しだいにいろんな悩みに対応できるようなページの構成にリニューアルしていけたらいいんじゃないでしょうか。



2 子ども文化センターの役割

 こうして「子ども文化センター」に「子育て支援ホームページ」が設置開設されることになるのですが、それはセンターは、ほんの一部の働きです。
「子ども文化センター」には、さまざまな子育てのグループが利用することができます。印刷物を作成したり、パソコンを使ったり、そういう設備は整っていて欲しいと思います。そして少なくとも、はじめのうちは、そういう費用は、行政で援助して頂けるといいと思います。
いずれは、ここ数年で通信衛星を利用するデジタル放送を使った「子ども放送局」もここの設置できればいいと思います。そして、K市での自分たちの活動を、自分たちで記録し、放送として世界に発信できればと思います。
 できるならば、こうしたセンターの運営は「K市子どもNPO」が立ち上がって、行政と協同する形で運営されるといいと思います。そのための運営資金は、だから、センターの理念に賛同して下さるさまざまな地元の方々からの寄付をいただきながら進めてゆくことも必要かと思います。
 そのためには、多くの人々に理解と共感と賛同を得られるような運営理念を高く掲げてゆく努力が必要です。

 私の考える「K市子ども文化センター」の理念は、「はじめに」で書いたことが中心です。
まとめていえば
@K市の中で展開されるさまざまな「子育て」の活動の間の橋渡し=ネットワーク作りをすること。
Aそのネットワーク作りのための拠点となること。
Bそこで、どういう子どもを育てるのかというと、K市の文化を深く理解しながら、K市から世界へ旅立ち、また、K市の良さを再発見していってくれる子どもを育てることです。その課題は次の、小中高のネットワークづくりに関係してきます。




3 小中高の子育て支援ネットづくり

 「子ども文化センター」では、K市独自の生きた子ども支援が出来て欲しいものです。それも「はじめに」で書いたとおりです。
 活動は地元のさまざまな文化資源を見出し、見直す所から始めることが必要かと思います。

たとえばあえて名付けるとすると
K市発ニルスの冒険プロジェクト
K市子ども北前船プロジェクト
△△山登頂プロジェクト
K市っ子お湯屋「千と千尋」体験プロジェク
△△川急流下りアドベンチャー

のような大きな目で見通したプロジェクトです。



K市発ニルスの冒険プロジェクト
 鴨池にやってくる鴨の渡りのルートをたどって、韓国やシベリアや東南アジアに旅をしょうというプロジェクトです。ここでは「鴨池」が世界に開く「窓」となって、渡り鳥のことはもちろん、それを媒介にして、海外の文化を知り、そこへ出かけるわけです。まさに現代版ニルスの冒険です。こういうことができるのは、鴨池をもつK市にしかできない発想です。

K市子ども北前船プロジェクト
こんなに有名な北前船を過去の博物学にしないで、生きた学問として学ぶために、子ども北前船という発想で、かつての北前船の交易ルートをたどり直し、何を物資として交易したのか、どこを通っていたのか、自分たちで再び体験して、その困難で偉大な営みを身をもって知るのも生きた学問を勉強することになります。

△△山登頂プロジェクト
日本三名山の一つ△△山がもっとも美しく見えるといった深田久弥の生まれ故郷から、△△山を登る困難な登山を計画するのも悪くないと思います。深田は中学3年の時に登っています。こういう中学の頃に、こういう困難な山登りを実現できるのは大きな自信と勇気を与えてくれることになるでしょう。

K市っ子お湯屋「千と千尋」体験プロジェクト
たくさんな温泉をかかえたK市。温泉って何だ、人類は温泉からどんな効用を得てきているのか、世界の温泉はどんなふうに使われているのか、未来の温泉の利用はどんな可能性があるのか、そういうことを勉強しながら、千と千尋のように温泉の仕事をしてみるのもいいかもしれません。

 ●△△川急流下りアドベンチャー
みんなでチームを組んで、急流下りを計画できるのは楽しいものです。でも、そこで、川とは何か、川が失いつつあるもの、川ではぐくまれるものなどの勉強もしっかりとしなければなりません。銛で魚を突く技を教えてもらえるかもしれません。


 もちろん、以上のことはあくまで、サンプルと言いますか、イメージです。
 他にもK市には、さまざまな文化遺産、文化資源があるのですから、そこを「窓」や「K市版どこでもドア」にして、子どもを「旅立たせる」プロジェクトはいくつでも考案することができます。



市内施設との連携

海辺や山には、子どもや青少年の活動に適した施設が点在していると思います。使われなくなった家や家屋、施設は、再利用させてもらって、合宿や勉強会に使い、うまく「子ども文化センター」と連携できるといいと思います。





学校と民間が協同して

こうしたプロジェクトが、生きた学問を勉強できるプロジェクトであることはおわかり頂けると思います。それも、自分たちで企画立案し、プランを立てて勉強する取り組みであればなおさら生きた楽しい勉強になると思います。勉強嫌いな子どもも、こういうプロジェクト中では意外に率先して勉強する子もいます。
 しかしながら、こうした取り組みは、民間の「子どもNPO」だけでやれるものではありません。やはり学校との連携が必要です。こうした、K市全体を視野に入れた取り組みでは、学校と民間が、カリキュラムの発想とプランニングの発想が、うまく連携をとって実現に向けて動かなければなりません。学校の方も、こういう活動を「総合学習」の一環として位置づけて下さっていいのですから。


大きな課題は人材探し

問題は、こういうK市の壮大な子育て支援の理念を理解して、「子どもNPO」を立ち上げることをやって下さる人材を得られかどうかです。私はK市にはたくさんの人材がおられると思っています。ただ、どこにおられるかはわからないので、こういう理念を掲げて一般募集されるのがいいのではないかと考えます。きっと、応募して下さる方がおられると思います。

以上、簡単にですが、K市子ども文化センター構想の基本的な考え方の提示とさせて頂きます。

2003年某日     村瀬 学