なぜ大人になれないのか―「狼になる」ことと「人間になる」こと― 洋泉社 2000年 9月21日 |
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心の発生を、類的な構造(融合の世界)と主観的な構造(区別の世界)の二重構造においてとらえ、その初期形態としての子どもの世界を、心的現象の変容と発達の過程として総体的に分析した論考。従来の乳幼児期における個人の成長の観察を中心にして得られる子どもの見方ではなく、「類としての心」と「個体としての心」の統一構造の中に見えてくる新しい子ども像を追求した。「初期とは何か」「年齢とは何か」「二語文の獲得とは何か」「自己像の形成とは何か」などの主題も論じる。 |
―目次― |
まえがき 第一章 「狼になる」こととしての若者 1 「人のかたち」への目覚め 2 最初の問いかけ 「なぜ人を殺してはいけないのか」という問いへの問い 3 「若者になる」とはどういうことか―「狼になる」ことを考える 共同の意志(正義)から外れるとき/子ども時代の終り−自然法から 共同の意志へ/「狼になる」儀式―エリアーデの「ダーキア人と狼」から/異類 になるとき―中島敦『山月記』と手塚治虫『バンパイア』 4 現代版「狼になる」物語― 『だから、あなたも生きぬいて』大平光代著を読む いじめのはじまり/共同の意志の中で人は「狼になる」 付論 「人」の観念が失われる三つの例 −『鍛えられた心』『アンクル・トムの小屋』『ひかりごけ』ー 第二章 「狼」として「家」を出るとき。 1 なぜいつまで親子なのか 動物の巣離れ/人間の親子はどうなのか/鶴見俊輔さんと母 2 家庭内暴力への対応 付論 思考実験「十三歳パスポート」の発行―新しい通過儀礼を求めて 「十三歳パスポート」のイメージ/「十三歳養子縁組制度」/二人目の親に 出会う/「名前の変更の選択」について/「性別の変更」はどうなのか/「国籍 の選択」 第三章 事件の中の若者たち−空想からヒロイズムヘー 1 佐賀バスジャック事件と「狼」 ―「声」と「ヒロイズム(英雄主義)」 マスコミ報道からわかってきたこと/なぜ被害者を最大限に侮蔑して いるのか/女性蔑視と優生思想/なぜ「特定の声」しか聞えなくなった のか/「親子」で居続けることの不合理 2 中学生五千万恐喝事件−「金」と「小さな資本家」 金脈の発見/「資金源」の絶妙な「管理」/現在の中学生が置かれている状況 3 「子ども」はどこまで「消費者」なのか 「お金」がいる「子ども」たち/教科書で教える「消費者」の位置/ 「消費者」と「未成年」はどういう関係にあるのか 4 『小僧の神様』に描かれた「お金」の問題 ありきたりの「ヒューマニズム」の間題からこほれるもの/なぜ 「小僧」が十三、四歳という年齢に設定されたのか/書かれなかった 「結末」が暗示するもの 第四章 文化の中の若者 1 なぜ「電波少年」のような「中継番組」が流行るのか 極貧の生活を見せる/恋愛の実況中継/消費者という生活の物珍しさ/ 「作られたホームレス」猿岩石 2 なぜ過剰に「キレイ」好きな若者が増えてきたのか 年配者の清潔好きと思春期から始まるそれとは同じようには語れない/ 「カッコイイ自分」と「カッコ悪い自分」/人間のイメージのゆらぎに対する敏感さ 3 なぜ「うそ」をつくことはいけないのか―「二つの顔」を生き始める頃 狼少年のうそ/新美南吉の『嘘』/「うそをついてはいけない」というしつけ/ 柳田國男の有名なふたつのウソの話/矛盾としてのうそ/自然も嘘をつく/ 「人の顔」と「獣の顔」と 4 なぜ若者には音楽がいるのか 音楽の授業が荒れると、その学校が荒れる/ビートルズがわからないなんて/ 私も「「浜田省吾」がわからなかった/病が癒えるとき、「音楽」が聴える/ 「上を向いて歩こう」を口ずさみながら/小室哲哉をはじめて聴く/歌詞の特徴/ 再び曲の特徴にふれる/クローン人間への賛美歌 5 なぜ「援助交際」が「悪い」と言えるのか 「なぜ売春をしてはいけないか」は問い方がおかしい/なぜ売春は「公」に 認められないか/ 「性行為」の見せる二面性/「表の社会のルール」では 認められないものがある/河合隼雄の「援助交際」論はなぜ説得力を持たないのか 第五章 「なぜ大人になれないのか」をめぐって −「狼」のイメージを再発見するところからー 「外国人」になること/グループ同士が「外国」になる/「人」の観念/「狼」のイメージの はじまり/「赤ずきん」と「狼」/「若者」と「狼」。 付論 「外国人(エイリアン)」としての主人公の位置について ―『人間失格』を読み替える あとがき |